「自分は正しい」から一歩離れる力 ~世阿弥『離見の見』に学ぶ仕事の本質~
自分が見ている自分と相手から見える自分は違う
私たちは毎日、自分なりに考え、自分なりに努力しながら仕事をしています。
だからこそ、
- 丁寧に説明した
- 相手のためを思って行動した
- 一生懸命取り組んだ
という自負があります。
しかし、自分の中では十分だと思っていても、相手に同じように伝わっているとは限りません。
「説明したつもりだったのに伝わっていなかった」
「親切のつもりだったのに押しつけと受け取られた」
そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
自分が見ている自分と、相手から見える自分は違う
仕事における問題は、努力不足とは限りません。
むしろ、
「自分の視点だけで自分を評価していること」
に原因がある場合があります。
人は自分の後ろ姿を直接見ることができません。
それと同じように、自分の仕事が周囲にどう映っているかも、自分だけでは分からないのです。
世阿弥が説いた「三つの視点」
室町時代に能を大成した世阿弥は、『花鏡』の中で三つの視点について語っています。
それが、
- 我見
- 離見
- 離見の見
です。
我見(がけん)とは
我見とは、自分自身の視点です。
「私はこう考えている」
「私は丁寧に説明した」
「私は頑張った」
という、自分側から見た世界です。
仕事を進めるうえで必要な視点ですが、それだけでは周囲からの見え方は分かりません。
離見(りけん)とは
離見とは、観客席から舞台を見る視点です。
つまり、
「相手にはどう見えているのか」
を考える視点です。
たとえば、
- この説明は分かりやすかったか
- この言い方は相手にどう伝わったか
- 誤解を与えていないか
を考えることです。
離見の見(りけんのけん)とは
そして世阿弥が最も重要視したのが「離見の見」です。
これは、
自分と相手だけでなく、
その場全体を俯瞰して見る視点
です。
- 会話は噛み合っているか
- 本来の目的は達成できているか
- お客様が本当に求めているものは何か
を考えます。
仕事に当てはめるとどうなるか
例えば、お客様へ商品やサービスを説明するとき。
我見
「良い商品だから紹介したい」
離見
「お客様は理解できているだろうか」
離見の見
「お客様の悩みを解決する提案になっているだろうか」
この違いがあります。
大切なのは、自分が話したかどうかではなく、
相手に届いたかどうか
なのです。
すべての仕事に必要な考え方
この考え方は営業だけに必要なものではありません。
- 電話対応
- 事務作業
- 経理
- 資料作成
- 清掃
- 商品準備
あらゆる仕事に共通しています。
たとえば、
「自分の仕事は終わった」
というのは我見です。
一方で、
「次に受け取る人は困らないだろうか」
と考えるのは離見です。
さらに、
「お客様や会社全体にどんな影響があるだろうか」
と考えるのが離見の見です。
常識は人によって違う
私たちは仕事に慣れるほど、
「これが普通」
と思い込みやすくなります。
しかし、
- お客様
- 新入社員
- 若い世代
にとっては、その常識が当たり前ではないかもしれません。
だからこそ、
自分の視点から一度離れ、
相手の立場から考えることが大切です。
失敗を成長の材料に変える
思い通りにいかなかったとき、
私たちはつい
「相手が分かってくれなかった」
と考えたくなります。
しかしその前に、
- 我見に偏っていなかったか
- 相手の視点を想像できていたか
- 全体を見ることができていたか
を振り返ることが大切です。
失敗は、自分を責めるためではなく、
視野を広げるための材料になります。
まとめ
世阿弥の教えである「離見の見」とは、
「自分の正しさから一歩離れ、相手や全体にどう届いているかを見る力」
です。
私たちは仕事に真剣だからこそ、自分の考えにとらわれることがあります。
だからこそ、
- 自分はどう考えているか
- 相手にはどう見えているか
- 全体には何が起きているか
を意識してみてください。
観客席から自分を見る習慣が、仕事の質、人との関係、そして組織の未来を変えていくはずです。






